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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11051号 判決 1987年3月20日

原告

株式会社ベルモード

右代表者代表取締役

筒井光康

右訴訟代理人弁護士

網野久治

右輔佐人弁理士

網野誠

被告

株式会社東京・ベルモード

右代表者代表取締役

清水勝

右訴訟代理人弁護士

白井正實

主文

一  被告は、婦人服にかかる営業について、「株式会社東京・ベルモード」の商号を使用してはならない。

二  被告は、婦人服にかかる営業について、別紙表示目録記載の表示を使用してはならない。

三  被告は、婦人服の下げ札(タツグ)、織ネーム、包装紙、包装袋及び看板に別紙表示目録記載の表示を附し、これらの表示を附した下げ札若しくは織ネームを附した婦人服又は婦人服の包装紙若しくは包装袋にこれらの表示を附したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡のために展示し又は婦人服に関する広告、定価表若しくは取引書類にこれらの表示を附して展示し若しくは頒布してはならない。

四  被告は、東京法務局世田谷出張所昭和五二年四月一四日受付をもつてした被告の登記中「株式会社東京・ベルモード」の商号の抹消登記手続をせよ。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決は、第一ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一ないし第四項と同旨。

2  (仮に右第四項が認められない場合)

被告は、東京法務局世田谷出張所昭和五三年四月一四日受付をもつてした被告の登記中「株式会社東京・ベルモード」の商号を「ベルモード」の文字を含まない他の商号に変更する旨の登記手続をせよ。

3  主文第五項と同旨。

4  右1のうち主文第一ないし第三項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告設立の経緯とその商号等の周知性

(一) 原告の代表者である筒井光康は、その青年時代である大正一四年から昭和二年までの間、フランスのアカデミー・モード・パリで婦人帽の製造技術を修得し、その後アメリカ合衆国の製帽工場で婦人帽の製造から販売までの実務を学び帰国後の昭和三年一月、東京麹町において、「ベルモード帽子店」との名称で、個人経営による高級婦人帽の販売店を開設し、昭和六年には銀座にその支店を開設した。筒井光康は、昭和一一年一月一五日、洋装の普及とともに婦人帽の需要も拡大したことから、商号を「株式会社ベルモード」とする原告を設立し、自らその代表者となるとともに、右の個人経営による「ベルモード帽子店」の営業を原告に承継させた。

原告は、設立後まもなく、神戸及び新宿に支店を設け、築地に工場を建設して婦人帽の大量生産に乗り出し、また、このころから主要デパートに製品を卸すとともに、宮内省の御用も承るようになり、販売数量も順調に伸びていつた。したがつて、第二次世界大戦前において、既に原告の商号及びその営業たることを示す「ベルモード」なる表示並びに原告の婦人帽であることを示す「ベルモード」なる商標は、取引者需要者間において広く知れわたつていた(以下、「ベルモード」なる営業表示及び商品表示を総称して「原告表示」ということがある。)。

原告は、第二次世界大戦の終戦の前後頃、その営業を一時中止せざるを得ない時期もあつたが、昭和二二年銀座に店舗を開設してその営業を再開し、またこの頃から婦人服の製造販売も行うようになり、昭和二八年には麹町の本店を建築するなどして、逐次販売網を拡大し、昭和三〇年ころには、原告の戦前における名声も旧に復した。その後、原告は、昭和三八年麹町の本店の地に新たなビルを建築して本社社屋とするとともに、銀座の店舗も旧店舗の土地に新築したビルの一階において新しく出発することになつた。原告は、一般婦人帽の製造、小売販売及び海外輸出並びに婦人服の製造販売を業としているが、次に述べるように、逐年成長をとげている。

(二) 原告の資本金は、昭和一一年の設立当初は一二万円であつたが、昭和三二年には四八万円に、昭和四一年には四〇〇万円に、昭和四五年には一二〇〇万に、昭和五〇年には一八〇〇万円に増資され、今日に及んでいる。

原告の婦人帽及び婦人服の販売高は、昭和三六年には約六二四〇万円、昭和四四年には一億一八〇〇万円、昭和四五年には一億六九〇〇万円、昭和四七年には一億一六五七万円、昭和四九年には三億二七一四万円、昭和五〇年には三億八七四〇万円、昭和五二年には三億八〇六〇万円と順調に伸びている。右販売高のうち婦人帽の販売高は、例えば昭和五二年については三億円前後であつて、全国の年間婦人帽販売額(卸値段)五八億五四〇〇万円に比すれば一割以下にすぎず、その販売額も全国で五ないし六位の順位であるが、これは原告が高級婦人帽の製造販売に重点を置いているからである。

原告の製品は、現在、麹町及び銀座の店舗で販売される外、大丸大阪店(昭和二五年から)、松屋銀座店(昭和二八年から)、三越本店(昭和二八年から)、伊勢丹新宿店(昭和二九年から)、オリエンタル中村百貨店(昭和三〇年から)、大丸東京店(昭和三〇年から)、東横百貨店本店(昭和三一年から)、同吉祥寺店(昭和三一年から)、東急東横店(昭和三一年から)、松阪屋(昭和三八年から)、阪急梅田店(昭和四四年から)、阪急京都四条河原店(昭和五一年から)及びそごう大阪店、同神戸店等のデパートにおいても広く販売されている。

原告は、会社設立の当初から、「ベルモード」「Belle Mode」「Les Belles Modes」等の営業表示によりその営業活動を行うとともに、その商品にもこれらの文字を商標として使用してきたのであるが、終戦後も事業再開とともに、新聞雑誌、画報等に右営業表示によりその営業活動に関する記事広告等を随時掲載することにより、活発に宣伝広告を続けて今日に至つている。すなわち、原告は、我が国における婦人帽のファッションをリードし、啓蒙するという見地から、戦後も新聞や業界誌等にしばしば「ベルモード」の営業表示により婦人帽について広告するとともに、新聞雑誌の家庭欄等において婦人帽の流行の推移等についての取材にも積極的に応じてきた。

特に、昭和三四年の皇太子殿下御成婚の際、美智子妃殿下が着用される帽子七点を納入することとなり、その旨の記事が雑誌等にも大きく掲載され、「ベルモード」なる原告の営業表示、商標は、婦人服飾業界や服装に関心を有する婦人間に強く印象づけられた。

(四) 右のとおり、原告の商号及び「ベルモード」なる表示は、原告の営業たることを示す表示として、また、原告の商品たることを示す表示として、戦前から遅くとも昭和三四年から今日に至るまで、我が国において、広く認識されている。

2  被告の商号等使用の態様

(一) 被告は、昭和四四年八月七日、商号を「株式会社ベルモード」として設立された会社であつて、婦人服の製造及び販売を業としているが、昭和五二年四月五日その商号を「株式会社東京・ベルモード」に変更し、同月一四日、その旨の変更登記手続がなされた。

(二) 被告は、婦人服の営業について、別紙表示目録記載の表示のうち「東京・ベルモード」「東京ベルモード」「(株)東京・ベルモード」「(株)ベルモード」「ベルモード」「BELLE MODE CO. LTD」「TOKYO BELLE MODE CO. LTD」の表示を使用している。

別紙表示目録記載のその余の表示は、右各表示と同一又は類似であり、被告は、婦人服の営業についてこれらの表示を使用するおそれがある。

(三) 被告は、別紙表示目録記載の表示のうち、婦人服の下げ札に「ベルモード」の表示を、看板に「東京ベルモード」「(株)ベルモード」「ベルモード」「BELLE MODE CO. LTD」との表示を附し、右下げ札を附した婦人服を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡のため展示し、また婦人服に関する広告、パンフレット、宣伝表に「東京・ベルモード」「東京ベルモード」「ベルモード」との表示を附して展示し若しくは頒布している。

別紙表示目録記載のその余の表示は、右各表示と同一又は類似であり、被告は、これらの表示を使用して前同様の行為をするおそれがある。

3  営業主体及び商品主体の混同

(一) 表示の類似性

被告の商号は、原告の商号に「東京」なる地名と「・」との記号を加えただけであるから原告の商号と類似する。

別紙表示目録記載の表示は、原告の周知表示である「ベルモード」と同一又は類似である。

(二) 営業及び商品の類似性

婦人服を着用する婦人層は同時に婦人帽の需要者であり、婦人服と婦人帽とは需要者を共通にするものであり、またデパート等においても両者は近接する場所で販売されるのが通例であつて、両者は密接不可分の関係にある。

したがつて、原告の婦人帽の製造販売の営業と被告の婦人服の製造販売の営業とは類似性を有し、また原告の製造販売する婦人帽と被告の製造販売する婦人服とは商品としての類似性を有する。

(三) 混同の実例

被告の商品を購入した顧客からの苦情が原告に対し持ち込まれたことが過去に何度もあり、また、被告の商品の取引者であるデパートでさえ、被告と原告とを混同して被告に対する取引書類を誤つて原告に送付してきた例が過去に数例ある。

(四) 以上によれば、被告が婦人服の営業について、その商号又は表示目録記載の表示を使用することは、原告の営業上の施設又は営業上の活動と混同を生ぜしむる行為にあたるし、被告が表示目録記載の表示を附した婦人服を販売する等、右表示を商品表示として使用することは、原告の商品と混同を生ぜしむる行為にあたる。

4  営業上の利益を害せられるおそれ

原告は、前記のように、各デパートにおいて高級婦人帽を販売しているものであるが、被告がこれらのデパートにおいて販売する婦人服の中には、原告の商品の嗜好に沿わないものもあり、これらの商品が原告の商品であるかの如くに混同されることにより、原告の商品のイメージも損なわれ、高級婦人帽自体の売上にも影響するものである。

また、原告は、婦人服をも販売しており、これらについては原告が製造販売する婦人帽ともバランスがとれるよう細心の配慮がなされているのであり、原告の婦人帽の顧客は同時に原告の婦人服の顧客であることが多いのであつて、このような原告の顧客がしばしば被告の商品を原告の商品と混同して購入するために、原告の婦人服の販売数量にも多大の影響があり、原告は、その営業上の利益を害されているものである。

5  よつて、原告は、被告に対し、不正競争防止法一条一項二号に基づき請求の趣旨第一、第二項記載の不作為及び第四項記載の登記手続を、同法一条一項一号に基づき請求の趣旨三項記載の不作為を求める。

二  請求原因に対する認否、被告の主張等

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1のうち、原告の商号及び「ベルモード」なる表示が原告の営業表示として、また「ベルモード」なる表示が原告の商品であることを示す表示として我が国において広く認識されていることは否認する。その余の事実は知らない。

(二) 請求原因2(一)の事実は認める。

同(二)のうち、被告が婦人服の営業について、「東京・ベルモード」「東京ベルモード」「(株)東京・ベルモード」の表示を使用していることは認めるが、その余の事実は否認する。

同(三)のうち、被告が婦人服を販売し、また販売のため展示していることは認めるが、その余の事実は否認する。被告は、「東京・ベルモード」等の表示を商標として使用したことはない。

(三) 請求原因3の事実は否認する。

(四) 請求原因4の事実は否認する。

2  被告の主張

(一) 原告の商号等の周知性について

(1) 戦時中及び戦後は、食糧、住居が不足する等物資が欠乏し、一般国民が高級婦人帽を購入しうる状況になかつたことは公知の事実である。また、昭和三〇年代も、鍋底不況と岩戸景気終息後の景気下降と中小企業の倒産が続出する等の社会情勢下にあり、一般国民は、パーティや外出用の高級婦人服や高級婦人帽を購入しうる状況にはなかつた。昭和四〇年代特に昭和四三年以降は日本の経済力が飛躍的に増大し、昭和四〇年代後半においては婦人服のファッションが盛んになつていたが、高級婦人服用のアクセサリーとしての高級婦人帽は未だ一般婦人層になじみが薄かつた。また、今日においては、おしやれとして高級婦人帽を着用する人は少なくなつており、婦人帽についての商標とかメーカー名が一般多数の婦人に広く認識せられる基盤はない。

原告の商品販売に関する営業収支をみると、昭和二〇年ないし同二五年は毎年赤字で、昭和二六年ないし同二八年、同三〇年、三二年は僅かに黒字であつたものの、昭和二九年、三〇年、三三年、三四年、三六年は赤字であり(なお、昭和三五年、三七年、三八年は不明。)、また、昭和三九年ないし同五二年も毎年継続して営業損失を生じている状態であつて、昭和五三年四月から昭和五四年三月までの一年間の業種別純益ランキング及び業種別売上高ランキングの帽子製造卸の部、婦人子供服の部のいずれにも原告は登載されていない。

原告の行つた新聞広告は、いわゆる「記事中」とよばれる種類のものにすぎず、広告回数も少なく、その費用も僅かなものである。

右のような、高級婦人帽に関する時代的な背景、原告の営業規模、広告宣伝の種類・回数等を考慮すれば、原告の商号及び「ベルモード」の表示が日本全国はもちろん東京都においても広く認識せられる程度に至つていないことは明白である。このことは、多数の会社を登載した各種の企業要覧や就職案内雑誌に被告は登載されていても、原告は登載されていないことからも明らかである。

(2) 原告の商品は高級婦人帽であることからその顧客層は狭少であり、普及性はなく、原告の商号及び「ベルモード」の表示が知られたものであるとしても、それは、皇族、宮内庁関係者及び外交官等の一部の人々の間だけであつて、一般需要者に広く認識されているわけではない。

(3) ベル(鐘)もモード(流行)も現代の日本語においては、単なる普通名詞であり、原告の「ベルモード」なる表示は、単なる普通名詞の組合せにすぎず、このような表示に周知性を認めることはできない。

(4) 「ベルモード」なる商標については、訴外伊藤弘株式会社が昭和三二年一一月八日に指定商品を被服手巾、釦紐及び装身用「ピン」の類として商標権の設定登録を受けている。したがつて、右期日以降の原告の「ベルモード」なる表示の商標としての使用は登録商標の不正使用であり、このような原告の表示に周知性を認めることはできない。

また、被告の親会社である訴外牧村株式会社は、昭和二七年一二月一七日、「ベルモード」なる商標につき指定商品を毛織物として登録出願し、これは昭和二八年五月九日出願公告され、その後設定登録されているから、原告の「ベルモード」なる表示の使用は右商標との関係でも不正使用であり、この点からも原告の右表示に周知性を認めることはできない。

(5) 登記簿上、原告の存立の時期は昭和四一年一月一四日までであつたところ、その前日の同月一三日に存立の時期の定めが廃止され、その六か月後の同年七月一五日にその旨の登記されているが、右一月一四日から右七月一五日までの六か月間は原告が解散会社で清算中であることを意味するから不正競争防止法の保護を受けることはできないし、原告が存立時期の定めを廃止したにもかかわらずその登記手続を六か月以上も躊躇逡巡していた事実は原告自らが周知性を否定していたか或いは周知性の放棄を自白しているに等しい。

(二) 被告の行為について

(1) 被告の商品を取り扱うデパートがした新聞等における広告の中に「ベルモード」の文字が使用されていることがあつても、これはデパートが行つたものであつて、被告の関知するところではない。

(2) 被告は、「東京・ベルモード」「ベルモード」なる商標の下に婦人服を販売したことはない。すなわち、被告は、その婦人服については、ベル・ヴオーグ、ベル・セシリア等の商標を使用しているのであり、下げ札等に「(株)東京・ベルモード」等の商号が記載されていても、これは当該商品の製造販売の主体を表示するものとして使用しているものであつて、商標として使用しているものではない。このような商号の記載は通産省告示「繊維製品品質表示規程」により義務付けられているものである。

(三) 営業主体及び商品主体の混同について

(1) 婦人帽と婦人服とは通例は異なる製造業者により製造されるものであつて、業種別分類においても異なる業界として分類され、商標法上も非類似商品として扱われているから、商品の出所混同は起こり得ない。

(2) 原告と被告の商品は右(1)のとおり判然と区別されるし、販売方式も原告は需要家に対しては直接販売であるのに対し、被告は需要家に対しては間接販売であつて異なるから、原告と被告とは競業関係が存在せず、競業関係のないところに不正競争行為もあり得ない。

(3) 被告は、婦人服の製造販売業者として、遅くとも昭和五〇年頃から原告よりはるかに著名であり、周知地域も広範囲であつて、このような被告の商品が、僅かな販売数量、売上高にすぎない原告の商品であるかのように一般婦人需要者に誤認せられ、商品の出所について混同せられるおそれはない。

(四) 営業上の利益を害せられるおそれについて

仮に原告の商号等がかつて周知であつたとしても現在においては、被告のほうが遙かに著名であるから、仮に商品の出所等について混同が生じたとしても、それにより営業上の利益を害されるのは被告である。

3  被告の主張に対する原告の反論

(一) 被告の主張(一)(3)について

原告の「ベルモード」なる文字は、「Belles Modes」すなわち「美しい流行」「美しい流行装身具」という意味を表わすフランス語を片仮名で表現したものであつて、被告が主張するように「ベル」(鐘)と「モード」(流行)を組み合わせたものではない。

(二) 被告の主張(一)(4)について

原告は、伊藤弘株式会社が「ベルモード」なる商標を出願した昭和三二年一月以前から「ベルモード」の表示を商標として使用しており、右表示は右出願時において原告の商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたものであるから、原告は商標法三二条一項に基づく先使用権を有する。したがつて、原告の「ベルモード」の表示の使用は不正使用ではない。

また、牧村株式会社の有する「ベルモード」なる商標の指定商品は毛織物であつて、これは婦人服や婦人帽と非類似商品であり、不正使用に当らない。

(三) 被告の主張(二)(1)について

取引の通念に照らすと、製造業者等は、特定の商標を附した商品を流通におく以上、流通過程においてデパート、小売業者等が販売促進のため広告等によりその商標を使用することについて黙示の承諾を与えているものと解すべきであり、本件の場合もデパートによる被告の表示等の使用は被告において使用せしめたものというべきである。

(四) 被告の主張(二)(2)について

被告が下げ札等に記載した「(株)東京・ベルモード」の如き表示は、商号の表示であるとともに、「ベルモード」の文字が特に顕著に表わされていることからも明らかなようにビジネスマーク又は商標としての使用でもある。被告主張の通産省告示の存在は、商標的な表示であることを否定する理由にならない。

(五) 被告の主張(三)(1)について

婦人帽と婦人服は、商標法上同一商品区分に属し、しかも中分類でも同じく「被服」に含まれており、需要者取引者を同一にし、密接不可分の関係にある商品であるから、原告の商号及び表示が婦人服飾業界及び婦人服飾品の取引者需要者において広く認識されている以上、非類似商品であつても、出所の混同が生ずる。

(六) 被告の主張(三)(2)について

不正競争防止法一条一項一号及び二号の解釈上、競業関係の存在は差止の要件ではないのみならず、婦人帽と婦人服は、前記(五)のとおり、出所の混同が生ずることが多いから、このような場合においては広義における競業関係が存在すると言い得る。また販売方式も、原告において小売業者を通じ需要者に販売している商品が相当量あるからこの範囲においては、原告も被告と同じく需要者に対する間接販売である。

三  抗弁

1  不正競争防止法六条の主張

被告は、設立された当初から、商標「ベルモード」の商標権者である牧村株式会社の承諾のもとにこれを使用してきたものであり、更新登録懈怠から一時期右商標権が失効したものの、昭和五八年五月二六日に登録された「ベルモード」の文字からなる登録第一五八八一二一号の商標権を有し、また、「BELLEMODETEX」及び「ベルモードテックス」の商標権を有するから、被告の商号及び商標等の使用は不正競争防止法六条による権利の行使であり、許されるものである。そして、商標の商号化、外国文字の商号化の時代になつているから、被告の有する登録商標「BELLE MODE」を日本語の「ベルモード」と称呼し、又は外国文字商号をベルモード株式会社として登録簿上の表示もできるから「BELLE MODE」の商標は不正競争防止法六条に該当する登録商標と解し得る。

2  先使用の主張

被告の親会社である牧村株式会社は、昭和二三年から「ベルモード」なる表示を婦人服地及び婦人服について善意で使用していたものであり、被告は、同社から婦人服地及び婦人服についてその製造、販売部門の営業譲渡を受け、右営業譲渡とともに「ベルモード」なる表示の使用を承継したものであるから、被告による「ベルモード」なる表示の使用は適法である。

3  権利の濫用等の主張

被告は、現在においては婦人服の売上高は年間数十億円に達し、婦人服業界の上位に位置するものであり、その設立当初はともかくとして、被告がその信用と実績を獲得した今日において差止等の請求権を行使することは権利の濫用である。また、原告は、久しきにわたりその権利の行使をせず懈怠していたものであるから、原告の右権利は失効したものというべきである。

四  抗弁に対する認否

1  不正競争防止法六条の主張について

抗弁1の事実は否認する。商号の使用は商標権の効力の範囲外の行為であるし、婦人服は被告主張の商標権の指定商品には含まれていないから、婦人服についての「ベルモード」なる表示の使用は権利の行使と認められない。

2  先使用の主張について

抗弁2の事実は否認する。被告の先使用の抗弁は、商品表示に関するものであつて、営業表示に関するものではない。また、商品表示に関しても、牧村株式会社が「ベルモード」の表示を婦人服について実際に使用していたか疑わしいし、仮に使用していたとしても、少量の見本としての婦人服についてにすぎず、このように婦人服自体は毛織物の広告の媒体であるから、これは毛織物についての商標の使用というべく、差止請求の対象たる婦人服についての商標の使用といい得ない。

3  権利の濫用等の主張について

抗弁3の事実は否認する。被告が年商数十億円の企業に成長しているとしても、それは原告の著名な商号及び「ベルモード」なる表示に只乗りしたことが大きな理由となつているのであり、また、原告は、被告に対し、再三にわたり警告したにもかかわらず、被告は何らの応答もせず、ただ「ベルモード」の上に「東京」という文字を附したにすぎない表示を使用して年々ますます出所混同行為を増幅するに至つているため、本訴を提起し、差止め等を求めているものであつて、被告の主張は理由がない。

第三  証拠<省略>

理由

一原告表示の周知性

1  原告設立の経緯等

<証拠>によると、次の事実を認めることができる。

原告の代表者である筒井光康は、大正一四年から昭和二年の間、パリで日本人として初めて帽子の製造技術を修得し、昭和三年一月東京の麹町において婦人帽の販売を目的とした「ベルモード帽子店」の名称の個人経営の店舗を開設した。その後筒井光康は、銀座に支店を設け、また皇族や華族、財閥家等のいわゆる上流階層の人達の利用をも受けるようになるなど事業が順調に発展したため、昭和一一年一月一五日原告を設立して右「ベルモード帽子店」の営業を承継させた。原告は、設立された後まもなく、築地に製造工場を設け、婦人帽を大量生産してこれを主にデパートに卸し、また同じころ新宿と神戸にも支店を開設した。もつとも、原告は、第二次世界大戦の終戦の前後ころ一時期営業を中断したが、終戦後の昭和二二年には銀座に店舗を再開し、昭和二五年には麹町に本社を建築し、更には昭和三八年には同地に七階建てのビルを新築するなどして現在に至つている。

2  原告の資本金、売上高等

<証拠>によると、次の各事実を認めることができる。

(一)  原告の資本金は、昭和一一年の設立時には一二万円であつたが、昭和三二年に四八万円、昭和三五年に九六万円、昭和三八年に一九二万円、昭和四一年に四〇〇万円、昭和四三年に七六八万円、昭和四五年に一二〇〇万円、昭和五〇年に一八〇〇万円へと次第に増資されている。

(二)  また、原告の売上高は、昭和二七年度に六四二万一〇〇〇円であつたのが、昭和三二年度に二八〇九万一〇〇〇円、昭和三七年度には六五六〇万五〇〇〇円、昭和四二年度には九二二一万三〇〇〇円、昭和四七年度には二億三九一三万五〇〇〇円、昭和五二年度には四億一一〇〇万七〇〇〇円、昭和五三年度には四億一三七六万六〇〇〇円へと増加し、特に昭和三六年度には前年度の三二六九万四〇〇〇円の二倍近い六二三九万九〇〇〇円の売上高に達している。

(三)  原告の商品である婦人帽は「ベルモード」の商標で、昭和二八年から松屋銀座店で、昭和二九年から伊勢丹新宿店、大丸東京店で、昭和三一年から東急東横店で、昭和三二年から三越本店で、昭和三六年から松坂屋銀座店で、昭和四一年から阪急数寄屋橋店で、昭和四二年から東急本店で、昭和四五年から阪急梅田店で、昭和四九年から東急吉祥寺店で、昭和五一年から阪急京都店でそれぞれ現在に至るまで一般需要者に対して販売されている。また、大丸大阪店でも昭和二六年から昭和五〇年まで、そごう大阪店でも昭和二七年から昭和三八年までの間、右原告商品が「ベルモード」の商標で一般需要者に対して販売されたことがあり、更に昭和二八年には福岡市の岩田屋百貨店、大丸博多店で、北九州市の玉屋小倉店で、昭和三七年から昭和五〇年までの間名古屋市のオリエンタル中村百貨店で右原告商品が「ベルモード」の商標のもとに一般需要者に対して販売されたことがある。

3  宣伝、広告等

<証拠>によると、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、昭和三三年九月ころから全国紙の社会面の中央部分に「ベルモード」の文字を比較的大きくしかも変体の字体にした、婦人帽や服飾雑貨販売のための広告を定期的に掲載している。

(二)  昭和三四年二月ころから、全国紙の家庭欄に、婦人帽の流行に関する記事中に度々「ベルモード」との名称の入つた報道がされるようになつた。

(三)  昭和三四年当時大きな話題となつた皇太子殿下の御成婚の際には、美智子妃殿下が着用された帽子七点を原告において製作したことから、グラフ雑誌には「ベルモード」で製作された旨が大きく掲載された。また、翌昭和三五年の清宮殿下の御成婚の際にも、同殿下が着用された帽子を原告が製作したことから、グラフ雑誌には「ベルモード製」との記事が掲載された。

(四)  雑誌の皇室御用達に関する特集などにおいては、婦人帽の分野で常に「ベルモード」の名称が取り上げられ、また、美智子妃殿下御成婚の折りに同妃殿下が着用された帽子を原告において製作されたことが紹介されている。

4 右1ないし3の各事実によると、原告の「ベルモード」の表示(原告表示)は、婦人帽及びこれと密接な関係を有する婦人服その他の婦人服飾業界の取引者需要者間においては、遅くとも昭和三七年三月ころには、原告の婦人帽にかかる営業たることを示する表示として、また原告の商品である婦人帽を示す表示として広く認識されていたと認めるのが相当である。

5  周知性に関する被告の主張について

(一)  被告は「ベル」も「モード」も現代の日本語においては単なる普通名詞であり、「ベルモード」は単なる普通名詞の組合せにすぎないから周知性を認めることはできない旨主張するが、一般的に普通名詞の組合せからなる表示が周知性を取得することができないと断ずることはできないし、また普通名詞やありふれた構成などからなる表示が周知性を取得することが容易でないとしても、本件の場合、一般需要者が「ベルモード」との表示を見たり聴いたりしたとき、「ベル」は「鐘」を、「モード」は「流行」を意味するものと考えるのが通常であると考えられるところ、「鐘」と「流行」との間には意味内容において格別の関連性を見出し難いから、このような場合組合せ自体に十分特異性があり、ありふれた構成ということはできず、周知性取得にさほどの困難さはないと考えられる。

もつとも、「ベルモード」の表示をフランス語に由来するものとみるとき、これが「美しい流行品」を意味するものと解することもできる。しかし、「ベル」は、「鐘」ないしは「呼鈴」を意味する外来語としてまた「モード」は、「流行」を意味する外来語として、既に国語の一部となつているものということができ、かつ、わが国におけるフランス語の普及の程度からみるとき、一般に右のように解することに差障りはないものということができる。

(二)  被告は、原告の「ベルモード」なる表示の使用は、第三者及び被告の親会社たる牧村株式会社の有する登録商標の不正使用であるから周知性を認めることはできない旨主張する。なるほど、<証拠>によると、伊藤弘株式会社は、「ベルモード」を欧文字及び片仮名で横書きし、指定商品を被服、手巾、釦鈕及び装身用ピンの類とする商標について、昭和三二年一月一六日登録出願し、同年二月八日、これが登録されたこと、牧村株式会社は、「ベルモード」を片仮名で縦書きし、毛織物を指定商品とする商標について、昭和二七年一二月一七日登録出願し、昭和二八年八月二九日、それが登録されたことが認められる。そうすると原告が婦人帽について「ベルモード」の表示を用いることは、牧村株式会社の有する右商標権には婦人帽がその指定商品又はこれに類似する商品に該当しないため抵触しないが、原告表示の周知性取得時期が伊藤弘株式会社の有する右商標権の登録出願日以降であれば、同商標権には抵触するかのようである。

しかしながら、周知性取得前における特定の商品表示の使用が第三者の有する商標権を侵害するものであつたとの事情は、当然にはその商品表示につき周知性を取得することないしは不正競争防止法による保護を受けうることの障害事由とはならないと解するのが相当である。このことは、不正競争防止法六条が同法の適用除外例として商標法による権利の行使のみを掲げ、第三者の商標権との抵触等を挙げていないことに照らしても明らかというべきである。のみならず、原告が伊藤弘株式会社において前記商標権を取得するはるか以前から商品表示としての原告表示を使用していたことは、先に認定したとおりであるし、一方、原告が伊藤弘株式会社から商標権に基づく原告表示の使用差止め等の請求を受けながら敢えてその使用を継続するなど、伊藤弘株式会社の商標権取得後における原告による原告表示の使用を、周知性取得のための実績として顧慮するのを不当視させるような特段の事情も証拠上肯認し難いのである。したがつて、被告の主張はいずれにしても理由がない。

二被告の商号等使用の態様

1  被告が昭和四四年八月七日に商号を「株式会社ベルモード」として設立され、婦人服の製造販売を業としていること、昭和五二年四月五日その商号を「株式会社東京ベルモード」に変更し、同月一四日その旨の変更登記がなされたこと及び被告が婦人服の営業について、「東京・ベルモード」「東京ベルモード」「(株)東京・ベルモード」の表示を使用していることは当事者間に争いがない。

2  <証拠>によると、次の事実を認めることができる。

(一) デパートによる婦人服販売の新聞広告、チラシ広告、ダイレクトメール、パンフレットにおいて、ツーピース、プリントスーツ、シャネルスーツのような各種婦人服を示す言葉とともに、又はそのような言葉とは無関係に、「ベルモード」(表示目録4)、「(株)ベルモード」(同6)、「東京ベルモード」(同2)及び「BELLE MODE CO. LTD」(同14)の表示が使用されている。

(二)  女性用服飾雑誌には、同雑誌に写真として掲載された婦人服のメーカーとして又は衣裳協力先として「東京・ベルモード」(表示目録1)及び「東京ベルモード」(同2)の表示が使用されている。

(三) デパートにおいて、又はデパートの主催する婦人服の展示販売会場において、被告の売場ないし展示箇所を示す看板、張り紙に「ベルモード」(表示目録4)、「(株)ベルモード」(同6)、「東京ベルモード」(同2)及び「BELLE MODE CO. LTD」(同14)の表示が用いられている。

(四) 被告商品の下げ札には、「ベルモード」の部分が他の字よりも大きな、また異つた字体で記載された「(株)東京・ベルモード」(表示目録3)の表示及び「TOKYO BELLE MODE CO. LTD」(同23)の表示がなされている。

(五)  被告使用の普通貨物自動車の車体には「(株)東京・ベルモード」(表示目録3)の表示が記載されている。

3  右2の(三)(五)は営業表示として使用したもの、(四)は商品表示として使用したもの、(一)(二)は営業表示及び商品表示として使用したものと認めることができる。

右2の(一)(二)(三)(五)記載の表示(表示目録1、2、3、4、6、14)以外の表示目録記載の表示もこれらと極めて類似しているから、被告において婦人服にかかる営業について使用するおそれがあると認められる。

右2の(一)(二)(四)記載の表示(表示目録1、2、3、4、6、14、23)以外の表示目録記載の表示もこれらと極めて類似しているから、これらと共に、婦人服の下げ札、織ネーム、包装袋及び看板に使用されたり、これらの表示を使用した下げ札又は織ネームを附した婦人服又は婦人服の包装紙・包装袋にこれらの表示を使用したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡のために展示し、又は婦人服に関する広告、定価表、取引書類にこれらの表示を使用して展示・頒布するおそれがあると認められる。

4  被告の主張について

(一)  被告は、デパートが行つた新聞広告、デパートが作成したパンフレット・ダイレクトメール等に前記のような表示が使用されていたとしても、これはデパートが行つたものであつて、被告が関知するところではない旨主張するが、デパートは被告の商品を積極的に販売しようとしてその宣伝のために前記のような表示を使用しているのであり、被告の商品を販売するにつき被告の明示又は黙示の了解なく使用するなどということは取引通念上到底考えられないうえ、被告においてデパートに対し表示使用の中止方を申し入れたとの主張立証もなく、前記認定のとおり被告自身同一表示を使用していること等の点を考え合せると、デパートは被告と共同して右のような表示を使用したものと認めるのが相当であつて、被告の主張は全く理由がない。

(二) 被告は、下げ札の「(株)東京・ベルモード」の記載は、通産省告示に従い、製造販売の主体を表示するために行つているものであり、商標として使用しているものではない旨主張するが、商品自体や商品に密着して取りつけられている下げ札に商号が付されている場合には商号が商品表示として機能することも十分あり得るところであつて、本件においても<証拠>によると、下げ札の表には図案化された字体で「Belle Cecilla」「SanBalard」と商標が記載されているものの、その横に「ベルモード」の部分が他の部分より大きく異つた字体で「製造(株)東京・ベルモード」「(株)東京・ベルモード製造」と記載され、その裏には製造番号、サイズ等が小さい字体で記載され、その中央部分にやはり「ベルモード」の部分が他の部分より大きく異つた字体で「(株)東京・ベルモード製造」と記載されていることが認められ、この事実からすると、下げ札の表裏に記載された「(株)東京・ベルモード」の表示が商品の出所標識として機能していることは明らかである。この点に関する被告の主張も理由がない。

三営業上の施設又は活動の混同、商品の混同

1  表示の類似性

(一)  目録4の表示は原告の周知表示と同一である。

(二)  目録7、8、9の表示は、いずれも「ベルモード」と称呼されるし、取引者一般需要者としては「鐘」「流行」という意味を思い浮かべるのが通常であるから、原告の周知表示と称呼、観念が同一であり、これに類似していると認められる。

(三) 被告の商号及び4、7、8、9を除く目録の各表示のうち、「株式会社」「(株)」「CO」「CO.LTD」の字句は単に会社の種類又は会社であることを表わすものにすぎないから識別の基準とはなり得ないし、「東京」「TOKYO」の字句は、東京という地域を示す固有名詞であるが、極めて頻繁に用いられるため、この字句が取扱者一般需要者の注意を惹くことは少なく、またそれだけに経験則上取引等においては省略して呼称されることが多いと考えられる。また、被告の商号及び1、3、5の「・」は単なる記号にすぎないから、識別の基準となり得ないことはいうまでもない。そうすると、被告の商号及び目録4、7、8、9を除く各表示の要部は「ベルモード」「BELL MODE」「BELLE MODE」「BELLES MODE」「BELLES MODES」であると考えられる。

したがつて、目録1ないし3、5、6の表示は、原告の周知表示である「ベルモード」と要部において外観、称呼、観念を同一とするから、全体としてこれに類似し、また目録10ないし24の表示は、その要部において原告の周知表示と称呼、観念を同一とするから全体としてこれに類似するものと認められる。

(四)  右のとおり、被告の商号及び目録の各表示は、いずれも原告の周知表示と同一ないし類似する。

2  営業及び商品の類似性

原告の周知表示は、前記認定のとおり婦人帽及びその製造販売にかかるものであり、一方被告の商品は婦人服であり、その製造販売を営業としているが、婦人帽と婦人服とは、いずれも女性が身につけるものであるためその需要者が女性である点、目的や場所によつて着用すべきものの形が異なつたり、着用する人の顔形、姿形、更にはその個性により着用すべきものの形が異なる点、形態等が時間と共に変化するなどの流行性がある点において共通性があるところ、更に<証拠>によると、デパートにおいては、婦人帽と婦人服とは近接する場所で展示販売された例が多いこと、女性の服飾を考える場合には、帽子と衣服とはトータルファッションとしてとらえられることが多く、これらを切り離して取り扱うことは稀であるから、一般需要者としても婦人帽と婦人服とが同一の業者によつて製造販売されると考えることもあり得ることが認められるから、婦人帽と婦人服とは商品として類似性があると認められるし、またその製造販売は営業として近似性があると認められる。

3  混同の実例

<証拠>によると、次の事実を認めることができる。

(一)  三越百貨店枚方支店から被告製品に関する納品伝票及び返品伝票が原告宛に送付されてきた。

(二)  大丸百貨店から被告代表者に対する書簡の宛先住所欄に原告の所在地番が記載されていたため、同書簡が原告あてに郵送されてきた。

(三)  三越百貨店本店が作成し原告に送付してきた支払明細書には原告と取引のない同百貨店の枚方支店や池袋支店の取引が記載され、これはその内容からみて被告との取引を誤つて記載したものと推認される。

(四)  松屋百貨店から被告に対する請求書の名宛人住所欄に原告の所在地番が記載されていたため、それが原告宛に郵送されてきた。

(五)  三越百貨店から被告製品である婦人ドレスが返品伝票付きで原告宛に返品されてきた。

(六)  伊勢丹百貨店から原告に送付されてきた支払明細表には原告製品でないドレスが記載されたり、同様伊勢丹百貨店から原告宛にドレス・スーツ等の婦人服を記載した納品伝票及び返品伝票が送付されたりしているが、これらはいずれも被告製品であると推認される。

(七)  原告の顧客がデパートで婦人服を原告の商品と信じて購入したところ、後になつて被告の製品であることが判明し、原告に対し苦情を寄せることが数多くあつた。

(八)  昭和五三年ころ、学習院で開催されたバザーにおいて、バザーの主催者が被告製品を原告製品と勘違いして販売したため、その後これを購入した顧客から原告に対し苦情が述べられたことがあつた。

4  右1ないし3で説示したとおり、原告表示と被告の商号及び目録の各表示とは同一ないし類似であるし、原告の製造販売する婦人帽と被告の製造販売する婦人服とは商品として類似し、その営業も近似しており、更に一般需要者はもちろんのこと商品取引の専門業者であるデパートですら原告と被告とを誤る事例が多数あることからすると、被告は、その商号及び表示を使用することによつて、被告商品と原告商品との間に出所の混同を生じさせ、また被告の営業上の施設又は活動が原告のそれと同一であるかのような混同を生じさせていると認めることができる。

四営業上の利益を害されるおそれ

前記一掲記の各証拠によれば、原告の「ベルモード」なる表示には原告が長年にわたつて築きあげた名声と信用が附帯しており、原告はこの名声と信用に基づく各種の利益を有しているものと認められるから、前記認定のように被告において原告の右表示と同一又は類似の表示を使用して、商品の出所や営業上の施設活動に混同を生じさせた場合、原告表示のもつ名声や信用に基づく各種の利益が害され、また今後害されるおそれがあることは明らかであつて、被告が被告表示を使用することにより、原告は自己の営業上の利益を害されるおそれがあると認めることができる。

五被告の抗弁について

1  不正競争防止法六条該当の抗弁について

<証拠>によると、被告の親会社である牧村株式会社は、「ベルモード」の文字からなり、毛織物を指定商品とする商標につき昭和二七年一二月一七日登録出願し、昭和二八年八月二九日登録を取得したが、右商標権は、昭和四八年八月二九日に存続期間満了により消滅したこと、また、牧村株式会社は、「ベルモードテックス」の文字からなる商標につき昭和二七年一一月二〇日に、「BELLEMODE」の文字からなる商標及び「BELLEMODTEX」の文字からなる商標につき昭和三五年二月一五日にいずれも指定商品を毛織物として登録出願し、その後登録を得たこと、牧村株式会社は、右の四つの商標について被告にその使用を許諾していたが、昭和五四年一二月二〇日「ベルモードテックス」及び「BELLEMODE」の各商標にかかる商標権を被告に譲渡し、現在被告において右各商標権を有していること、被告は、右牧村株式会社の有していた「ベルモード」の文字からなる商標権が消滅したことから、昭和五五年二月二二日「ベルモード」の文字からなり、指定商品を織物、編物、フエルト及びその他の布地とする商標を前記「ベルモード」及びその他の布地とする商標を前記「ベルモードテックス」「BELLEMODE」等の連合商標として登録出願し、昭和五八年五月二六日その登録を取得したことが認められる。右各事実から明らかなように、被告の親会社たる牧村株式会社の有していた商標権も、被告の現に有する商標権もいずれも指定商品を毛織物ないし織物、編物、フエルト及びその他の布地とするものであつて、被告の商品である婦人服は指定商品に該当しないのみならず類似商品にも該当しないから、婦人服について被告表示を商標として使用することが商標権の行使ということはできない。また、被告表示を商号ないし営業表示として使用することが商標権の行使の範囲に含まれないこともいうまでもない。

よつて、被告表示の使用が不正競争防止法六条により許されるとの被告の抗弁は理由がない。

2  先使用の抗弁について

<証拠>によると、被告の親会社である牧村株式会社は、鐘紡の毛織物の卸売会社として「ベルモード」「BELLMODE」「ベルモードテックス」「BELLEMODETEX」の商標で毛織物の生地を卸売していたところ、昭和二五年ころから小売店のショーウインドーに飾る見本として鐘紡の毛織物の生地を使用した紳士服及び婦人服の既製服の製造を始め、これに右「ベルモード」等の各標章を附して卸売先の小売店に販売し、小売店ではこれを店頭に飾つていたが、その数は昭和三〇年ころにおいて年間一〇〇着程度であつたこと、牧村株式会社の取り扱う生地の七〇ないし八〇パーセントは紳士物であつたこと、牧村株式会社は、フランスやアメリカでプレタポルテすなわち高級既製服が流行したことから昭和三七年四月一日、婦人服地及び婦人服のみの独立営業部門を設け、これに「ベルモードセンター」との名称を付し、既製婦人服の販売に乗り出したが、数年間は赤字が続き、昭和四三年ころから利益が生ずるようになつたので、「ベルモードセンター」を独立企業体とすることとし、昭和四四年に至り被告を設立したことが認められる。右事実からすると、昭和三七年四月一日にベルモードセンターが設けられるまでは、牧村株式会社が製造販売した婦人服に「ベルモード」等の表示が付されていたとしても、この婦人服は製造される数量が極く僅かで、しかも織物の生地の販売宣伝のために小売店の店頭のシヨーウインドなどに飾られる見本品にすぎなかつたものであるから、右「ベルモード」等の表示の使用は、あくまで毛織物生地についての使用であつて、婦人服についての使用ということはできない。したがつて、被告の先使用の主張は理由がない。

3  権利濫用、権利失効の抗弁について

<証拠>によると、被告は昭和五三年現在で資本金が一億五〇〇〇万円、従業員数が一七九名に及び、また同年度の売上高が五二億五四八六万であつて、原告の昭和五三年度の売上高四億一三七六万円の一〇倍以上に及ぶこと、経済雑誌社の発行した昭和五五年版の就職案内誌には被告の紹介記事は掲載されているが、原告の紹介記事はないこと等の事実が認められ、現在においては被告の企業規模が原告のそれより相当程度大きいことが窺える。

しかし、一方、被告の前身たる前記「ベルモードセンター」が開設される以前から原告表示が原告の商品及びその営業を示すものとして全国の取引者、一般需要者に広く認識されていたこと、被告は昭和四四年に設立され、その後次第に業績を伸ばしたにすぎないことは前記認定のとおりであり、<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五一年一二月、被告に対し「ベルモード」の表示の使用を中止するよう求めたが、被告はこれに何ら応答せず、昭和五二年四月に「株式会社ベルモード」の商号を現商号に変更したが、各被告表示の使用は従前と変わらなかつたことが認められ、また本訴が昭和五三年一一月九日提起されたことは当裁判所に顕著である。これらの事実に照らせば、差止めを受ける被告の企業規模が差止めを求める原告の企業規模より大きいからといつて、原告の権利行使が許されないとすることはできないし、他に本件全証拠によるも、原告の差止め等の権利が失効し、あるいは原告による右権利行使が濫用により許されない、とする事情は認められない。

4  被告の抗弁はいずれも理由がない。

六以上のとおり、不正競争防止法一条一項一、二号に基づき、被告に対し、その商号の使用の差止め、別紙表示目録記載の表示の営業表示及び商品表示として使用することの差止め並びに商号登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官元木 伸 裁判官安倉孝弘 裁判官一宮和夫は職務代行を解かれたため署名押印することができない。裁判長裁判官元木 伸)

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